なるほど一気に読めました!
でも、いやもうなんだそりゃという恥ずかしい設定がドーンと迫る導入部が一番手強かったです。

国王制を敷かれている日本、「凶」の殺人許可証を持つ「トリガー」達。
これを「かっちょいい〜」と思える年齢ではないオバサンですので。どれもこれも、些細な場面ですぐぶち切れて人を殺す主人公三上くん、駄目だよ。普通に注意するかスルーしてよ。カルシウム足りないぞ?
読み進むにつれ、三上以外のトリガーも次々出てきて態度も様々なのでホッとしました。
なかなか撃てない者、撃たない者、愛する人を守るために引き金を引く者。撃つ時と場所を選ぶ者。ふむふむ。

トリガーの周辺で生きている人達の関わり方も考えも様々です。その昔、通学電車で「なんだコイツ」と怒りを溜めていた板倉少年ももう、殺せーとだけ思ってはいないワケですね(そりゃそうだ)

それぞれの人物の服装や特徴の描写が細かいところ、そういう人間観察がコントの演技に生きているのだと納得。車種や銃の形式、煙草の銘柄もきっと似合いの選択がされているのでしょう。かといって、大藪春彦や片岡義男ほど何ページも解説したりしないのは助かります。とりあえず我が家はレガシーにずっと乗ってたので、愛車が中古レガシーな先生に親近感♪
(じゃがいもゴロゴロカレーでは爆笑〜。板さん実家のカレーがそんなで大好きだっていつも言ってるよね?)

短編オムニバスという方式も、コントをつなげてライブを演出している板倉さんにはきっと自然な方式だったのでしょう。笑えるオチがついた回もあったりして(救急車 笑)。そして、そのオムニバスの輪がつながって行くところは「ドクソウ」にも共通な嬉しい仕掛けです。
伏線やミスリードを仕込みつつ、因果応報に持ち込んで、最終的には三上にも自分の非をきちんと自覚させているところなんかもすっきりしましたねー。この辺一応、未読の人のためにぼやかしておきます。

なんかほめすぎな気もするので、以下ツッコミどころを。

☆指紋認証は県外ストップ機能より重要でしょ!!
☆美容整形に夢を見すぎ。
「この写真と同じに」の注文で、知り合いが見間違えるレベルに仕上げられるのはブラックジャックだけです(笑) 死体の美容整形は意味ないし(^^;;;)
☆海外高飛びにビザ申請??犯罪者のくせに不法滞在はしないつもりなのが笑えるー(日本人のアメリカ観光はビザ要らないよね? 板さんは仕事で行くから普通と違うのでは。)


そういえば、漫画「サトラレ」を思い出しました。
核になる設定”トリガー”がどーんとあって(「サトラレ」の場合は思考が外に漏れる天才サトラレ達)、主人公はこう、同じサトラレ&トリガーでも他の年齢だとこう、家族は、賛同者、対立者、条例を作った方はこう、と角度を変えた描写を積み重ねての思考実験みたいな。
最近では「イキガミ」もそうなのかな、そっちは原作も映画も未見ですが。
各都道府県にトリガーが1人。出てこなかった地方トリガーの設定や削られたエピソードがありそうで興味津々です。広大な北海道もトリガー1人って、遭遇確率低すぎ(笑)沖縄は結局米兵は撃っちゃいけないとか、あ、これはマジ過ぎる。

宣伝にあらすじを紹介しては「ひどい奴だと思われる」と言っていた板倉さんでしたが、読後の印象は逆です。なんていい人なんだろうと。
だって基本が”迷惑をかける奴が許せない”、ですよ?? 子供に優しく、ポイ捨て禁止。悪ぶってはいてもマットウですよね。 援助交際はご自由にーなところが、まあ男子だなあとは思いますが(父親目線なら援交オヤジ必殺でしょ)、芸能界の枕営業はお嫌いな様で、これまたマットウです。
そして、想像が働く限りの『悪いこと』をさせただろう「悪」のすること、幼女虐待、レイプに母親殺し、強盗殺人の描写が必要最小限で、決してそこを楽しんでいません(世の中には、微に入り細を穿って、凶悪犯罪部分を一番楽しそうに書く小説家もいるのにね)。

家族を亡くしたものの嘆きも様々に描かれて、彼にとっての家庭の大事さも良く分かります。食堂の直子さんに投影される働き者で優しい母親像といい、いい家庭で育ったいい子だよね板倉青年。
(反面、「恋人」の扱いが粗雑!半年もほったらかしで家事だけさせといて、でも愛を信じているとは恋愛面が心配になりますよー)

「相棒」西村くんのおいしさも見逃せません。
バリバリと人を殺しまくる三上に”唯一接し方が変わらなかった男”って、本来その方が変な人です。でも、ふりまわしても無視しても、正論とツッコミをぼやきながらもついてきてくれる西村くんがいるから、こっち(読者)も三上を受け入れられる。インパルスファンにしたら、どれだけ堤下?というキャラです。ふふふ。
国王と小早川も、それを言うなら前述の恋人同士も、片方の好き放題を止めないところは似てる……。それが理想なのか日常なのか板さん? 

というわけで、ファンならどんどんと深読みして楽しめます(笑)自叙伝を書くような人生じゃなかったから、と創作を試みた板倉さんでしたが、実はエピソードを選んで自己演出できる自叙伝よりも、創作の方がうっかりあれこれにじみでてしまう模様です。その辺、ご本人も気がついたみたいで品川さんとの対談で語ってましたねー。
増刷もかかったそうで、”板倉俊之”を知らない人にも読まれて行くんでしょうか。興味深いです。 

(追記 板倉俊之小説第2弾「蟻地獄」評はこちら)